山極 寿一・京大教授 「『暴力で平和維持』の誤解」 

 選挙は、信じがたい結果となった。

 原発を54基作ってきた政党が、福島を壊し人々を不幸にしながら、たいした反省もなく再稼働を目論み、核のゴミの大問題にはいっさい触れず、「強い日本にする」と息巻いて国防軍を作ろうとしていて、という事は徴兵制もそのうち始まるだろう、TPPで日本の食料自給率をさらに下げ、皆保険を危うくし、日米同盟をいっそう深めるという事は沖縄から基地を追い出すことはしないであろうし・・・そんな政党を多くの日本国民が支持したわけだ。選挙に行かなかった者の責任もある。

  私の周りの音楽家や芸術家、それを見聞きしてくれる人たちは、『原発などもってのほか』という考えの人ばかりだ。
 しかし、選挙に不正がないとすれば、私たちのような考えの日本人は、ほんのわずか!という事に愕然とする。

 私は日本人不信、真っ只中である。


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 霊長類の研究者・山極さんが毎日新聞に定期的に「時代の風」というコラムを書いている。
 今回は12月16日のものを紹介したいと思う。

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山極 寿一 「暴力で平和維持の誤解」 <2012年12月16日毎日新聞 時代の風より>

 ノーベル賞の中で平和賞だけはなぜと首をかしげる受賞者が多い。今年はEUが受賞したが、その理由である『戦争を二度と繰り返さない事を目的に行ってきた活動』というのは本当だろうかと疑いたくなる。アジアやアフリカで起こっている紛争は、もともと欧州列強による植民地支配で民族が分断された事が原因だし、いまだに土地や資源をめぐる争いに欧州の企業や政府は深く関与している。
 この秋に再選されたオバマ大統領、2009年の授賞式で「戦争はどのような形であれ、昔から人類とともにあった」と述べた。そして、平和を維持する上で戦争は必要であり、道徳的にも正当化できる場合があることを強調した。その言葉通り、アフガンへの武力介入を強め、11月にはビンラディンを殺害している。

 わたしはここに世界の暴力に対する大きな誤解を感じずにはいられない。
 なぜオバマ大統領は戦争という暴力が平和の正当な手段であると言い切るのか。なぜノーベル平和賞は暴力を用いて戦争を防止しようとする活動に与えられるのか。
 そこには、戦争につながる暴力は人間の本性であり、それを抑えるためにはより強い暴力を用いなければならない、という誤った考えが息づいているように思う。

 ・・・人類は長い進化の歴史の中で狩猟者として成功し、獲物を捕らえるために用いた武器を人間へ向けることによって戦いの幕を開けた。社会の秩序は戦いによって作られてきた・・・

 この説はレイモンド・ダートによって提唱され、コンラート・ローレンツは、人類が抑止力を持たないままに武器の開発によって攻撃性を高めたとして、その説を後押しした。『戦争が人間の原罪であり、暴力は最初から人間と共にあった』とする考えは急速に普及し、「2001年宇宙の旅」などの映画のテーマとなって人々の心に深く根を下ろすようになった。

 ところがその後明らかになった科学的事実はこの考えとは全く違う。人類は狩猟者ではなくつい最近まで肉食獣に狩られる存在だったし、人間に近縁な霊長類が群れを作る理由は、食物を効率よく採集するためと、捕食者から身を守るためという事が分かってきた。ダートが主張した人類の化石の頭骨についた傷は、人類によるものではなく、ヒョウに殺された痕だと判明した。
 強大な力を誇るゴリラでさえ、オス同士の衝突で力の弱いメスや子どもたちが仲裁をする。力で屈服させる事が平和の手段とはなっていないのだ。

 集団間のトラブルに『戦い』という手段が用いられるようになったのは、人間が持つ高い共感能力が言葉によって目的意識を持ち、集団への帰属意識を強めたせいだと思う。
 戦争という手段は仲間の結束を促すからこそ政治の格好の手段となる。 

 今、日本では近隣諸国とのトラブル防止のために武力増強が必要との声が高まりつつある。アメリカの強大な武力を傘にしなければ国土を守れないという声も強まっている。
 しかし、人間以外の動物は同種の仲間の争いを力で押さえたりはしない。
 ベトナム、イラク、アフガンなどアメリカの武力介入を受け入れた諸国が幸福になった例はない。 
 日本が武力を強めていく将来に私は強く異を唱えたい。

 世界はそろそろ暴力とは別の手段を採用して紛争を解決すべきなのだ。現代の科学による正しい人間の理解がその先鞭をつける必要がある。
 これからの日本の政治はその範となる事が出来ると私は信じている。


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 ・・これは衆議院選挙当日の朝刊である。
 果たして結果は残念な事となった。

 こうして、まともな研究者や音楽家・芸術家は、「人間の幸せ」のような当たり前のことから始まり、或いはそこに至り、生きる意味を感じているので、不自然さ・胡散臭さに敏感で、相容れない。

 強い国という言い方に何の魅力も感じない。傷つく事を不安には思うが、そのために武装しても意味がないと匂いで感じる。

 野生的ということかも。

 本当の「幸せ」を感じることが出来なくなり、価値感を効率(便利・楽)と所有物にしか見出せない現代人。
 自然の中で自然のただの一部である自分を感じたり、音楽に揺さぶられる自分の魂を感じたりしてみようよ。

 とここに書いても、私のこれを読んでくれる人は、その限られた人なのだけれども。

CDやLive、Lessonのお問合せは、taka(アットマーク)tbi.t-com.ne.jpまで。

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